はじめに:「実績を見せてください」と言われたとき
営業先で「これまでの実績はありますか?」と聞かれて、口ごもったことはないだろうか。独立したばかりの頃、自分にはまともな実績がなかった。前職の仕事は守秘義務で見せられない。個人で受けた案件もまだ1〜2件。何を見せればいいのかわからなかった。
でも、クライアントが本当に知りたいのは「過去に何をやったか」よりも「自分の課題を解決できる人かどうか」だ。実績がない段階でも、その能力を伝える方法はある。ポートフォリオは「作品集」ではなく「営業資料」として設計するものだ。
実績がないときの3つの見せ方
見せ方1:想定事例を作る
実案件がなければ、架空のプロジェクトを設定して制作物を作る。ただし「なんとなく作りました」では意味がない。重要なのは「課題 → 解決策 → 成果の仮説」というストーリーを添えること。
例(Web制作の場合):
- 想定クライアント: 地方の個人経営カフェ
- 課題: Webサイトがなく、Googleマップの情報だけで集客している。新規来店が伸び悩んでいる
- 提案内容: メニュー・アクセス・予約導線を1ページにまとめたLP型サイト
- 期待される効果: Googleビジネスプロフィールと連携し、検索からの来店を月10件増を目指す
このように「誰のために、何を、なぜ作ったのか」を言語化することで、制作スキルだけでなく課題解決の思考力を示せる。
見せ方2:Before/Afterを作る
既存のWebサイトやチラシの「改善案」をBefore/After形式で提示する方法。実在する企業のロゴや画像をそのまま使うと著作権の問題があるため、必ず架空の素材やフリー素材を使う。
構成例:
| Before | After | |
|---|---|---|
| ファーストビュー | サービス内容が不明瞭、CTAなし | 課題→解決→行動の導線を設計 |
| フォーム | 入力項目12個 | 必須3項目に絞り、離脱率を想定で40%改善 |
| スマホ表示 | PC表示の縮小版 | モバイルファーストで設計 |
「何をどう変えたか」だけでなく、「なぜそう変えたのか」の根拠を添えることで説得力が増す。
見せ方3:プロセスを公開する
完成物だけを並べるのではなく、制作過程を見せる。ヒアリングシートの設計、ワイヤーフレーム、デザインの意思決定、修正のプロセスなど。クライアントは「一緒に仕事をしたらどんな進め方になるのか」を想像したがっている。
工程を見せることは「この人はちゃんと考えて作る人だ」という信頼の根拠になる。
想定事例の書き方テンプレート
想定事例を作るとき、「何を書けばいいかわからない」と手が止まる人は多い。以下のテンプレートに沿って書けば、説得力のある事例が出来上がる。
テンプレート構成
1. クライアント概要(業種・規模・課題)
2. 現状分析(何が問題か、データがあれば添える)
3. 提案内容(具体的な施策)
4. 実装の工夫(技術面・デザイン面で意識したこと)
5. 期待される成果(数字で示す)
記入例(コンサルタントの場合)
- クライアント概要: 従業員5名の税理士事務所。Webサイトはあるが、月間アクセスは100PV以下。問い合わせはゼロ
- 現状分析: サービス内容の記載が曖昧で、対象顧客が不明確。問い合わせフォームが分かりにくい位置にある
- 提案内容: ペルソナの再定義、サービスページの再構成、問い合わせフォームのファーストビュー設置
- 実装の工夫: 「相続税に強い税理士」というポジショニングに絞り、ページタイトルとH1を最適化
- 期待される成果: 月間アクセス500PV、問い合わせ月3件を6か月で達成する想定
事例を書くときの3つの注意点
- 「すごい成果」を盛らない: 想定事例である以上、非現実的な数字を書くと逆に信頼を失う。「月間100万PV達成」よりも「月間500PVに改善」の方がリアリティがある
- 使用した手法を明記する: 何を使ってどう実装したかを書くことで、スキルの証明になる
- 想定事例であることを明示する: 「※本事例は想定プロジェクトです」と注記を入れる。隠すよりも正直に伝えた方が、誠実さが伝わる
ポートフォリオに載せるべき5つの項目
1. 自己紹介
経歴の羅列ではなく「なぜこの仕事をしているのか」「どんな課題を解決できるのか」を書く。肩書より「何を提供できる人間か」が伝わる文章を優先する。
2. 実績(想定事例含む)
前述の想定事例やBefore/Afterを掲載する。実案件がある場合は、守秘義務に抵触しない範囲で、課題・提案内容・成果を記載する。数字があれば数字で語る(「問い合わせ数が月3件から月12件に増加」など)。
3. 対応可能なサービス
「何を頼めるのか」が一覧でわかるようにする。サービスごとに対応範囲と目安料金を記載すると、クライアントが相談しやすくなる。「要相談」ばかりだと、問い合わせのハードルが上がる。
4. 作業の進め方
ヒアリング → 提案 → 制作 → 納品という流れを図や表で示す。特に「初回打ち合わせは無料」「納品後のサポート期間は○か月」といった条件を明示すると安心感を与えられる。
5. お問い合わせフォーム
ポートフォリオを見て「相談してみたい」と思った人がすぐに行動できるよう、フォームは必須。入力項目は最小限にする。フォーム設計のポイントは問い合わせ改善の記事でも触れている。
業種別のポイント
士業(税理士・行政書士・社労士など)
守秘義務の制約が強いため、実名での事例掲載が難しい。その代わり、以下の要素が有効だ。
- 匿名での事例紹介: 「A社(従業員10名の製造業)」のように、特定されない範囲で課題と成果を記載
- 専門知識の発信: ブログやコラムで専門性を示すことで、ポートフォリオの代わりに信頼を構築できる
- 保有資格・研修歴: 資格の一覧や、直近の研修・セミナー受講歴を記載する
コンサルタント
目に見える制作物がないため、「何を考え、どう行動したか」のプロセスが重要になる。
- 支援領域と手法の明示: 「売上改善」ではなく「飲食店の客単価改善を、メニュー設計の見直しで実現」のように具体的に
- フレームワークの提示: 独自の分析フレームワークや課題整理シートがあれば、それ自体が実力の証明になる
- クライアントの声: 実名でなくても「依頼者の属性 + 感想」があると説得力が増す
デザイナー・クリエイター
制作物そのものが実力を語るため、ビジュアルの見せ方が重要。
- 高品質な画像で掲載: 小さなサムネイルだけでなく、全体が確認できるサイズで
- コンセプト説明を添える: 「おしゃれだから」ではなく「ターゲット層が○○であるため、△△のトーンを採用した」のように理由を明記
- 制作環境を記載: 使用ツール(Figma、Illustratorなど)やスキルセットを一覧化する
ポートフォリオ作成ツールの比較
| ツール | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
| WordPress | 自由度が高く、SEOに強い。拡張性も高い | 長期的にサイトを育て、事業の基盤にしたい人 |
| Wix | AIで素早くプロ級のデザインが作成可能。テンプレートが豊富 | デザインの知識がなく、短時間で公開したい人 |
| Notion | 更新が非常に簡単。見た目はシンプル | 最小限のコストでとにかく早く公開したい人 |
| foriio | クリエイター特化。作品を並べるUIに最適化 | ビジュアル中心のポートフォリオを作りたいクリエイター |
| Framer | デザイン性が高く、インタラクションも設計できる | Web制作者やデザイナーで、サイト自体がスキル証明になる人 |
選び方のポイント
- 既にWebサイトがある場合: サイト内にポートフォリオページを追加する(別サイトを作る必要はない)
- 初めてのサイト構築: NotionかWixで最短で公開し、実績が増えてきたらWordPressに移行する
- 名刺代わりのサイトと兼ねたい場合: 名刺サイトから営業サイトへの転換記事も参考になる
ポートフォリオを「営業ツール」にする3つの工夫
工夫1:ターゲットを明記する
「どんな仕事でも対応します」は、実績がない人が言うと逆効果だ。「一人社長のWeb集客支援に特化しています」のように対象を絞った方が、該当する人の心に刺さる。
工夫2:定期的に更新する
作って放置されたポートフォリオは、逆に「この人、最近は仕事していないのか?」という印象を与える。新しい事例やブログ記事を追加し、最終更新日が最近であることを示す。
工夫3:SNSのプロフィールにリンクを設置する
X、LinkedIn、Facebookなどのプロフィール欄にポートフォリオURLを記載する。SNSでの発信に興味を持った人が、次のステップとしてポートフォリオを確認する導線を作る。
ポートフォリオ公開後にやるべきこと
Googleビジネスプロフィールとの連携
自分の名前やサービス名で検索されたとき、ポートフォリオが検索結果に表示されるようにする。Googleビジネスプロフィールに登録し、WebサイトURLを設定しておく。
名刺・提案書にURLを記載する
対面での商談後に「詳しい実績はこちらに載せています」とURLを伝える。QRコードを名刺に印刷しておくと、その場でスマートフォンから確認してもらえる。
アクセス解析を設定する
GA4を設置し、どのページが見られているか、どこから流入しているかを把握する。ポートフォリオの中で特に閲覧数が多い事例があれば、そのジャンルの案件に営業を集中させるという判断もできる。
問い合わせに繋がる導線を確認する
ポートフォリオのどのページからでも、問い合わせフォームに1クリックでアクセスできるか確認する。事例ページの末尾には「この領域でのご相談はこちら」のようなCTAを必ず設置する。
よくある質問
Q. 実績が1件もない場合、ポートフォリオを作る意味はありますか?
ある。前述の通り、想定事例やBefore/Afterを作ることで「何ができる人か」を伝えられる。むしろ、実績ゼロの段階こそ、ポートフォリオが「自分を知ってもらうための唯一の手段」になる。完璧を目指す必要はない。3〜5点の事例を掲載して公開し、実案件が増えたら差し替えていく。
Q. 前職の成果物を掲載してもよいですか?
原則として避けるべきだ。多くの企業では、業務中に制作した成果物の著作権は企業に帰属する。掲載する場合は、必ず前職の許可を得ること。許可が得られない場合は、「前職では○○業界のWebサイトを年間20件担当」のように、数字と業務内容だけで実績を示す方法がある。
Q. ポートフォリオと自社サイト、別々に作るべきですか?
一人社長であれば、1つのサイトにまとめた方がよい。ポートフォリオ専用の別サイトを作ると、更新の手間が2倍になり、SEO効果も分散する。自社サイト内に「実績」「事例」のページを設け、ポートフォリオとして機能させるのが効率的だ。問い合わせへの動線設計はLP作成の基本も参照。
Q. 作品数が少ないと見栄えが悪くなりませんか?
数を水増しするより、少数でも「課題・提案・成果」のストーリーが丁寧に書かれている方が評価される。3点の想定事例に、それぞれ500文字の解説を添えた方が、10点の画像を並べただけのポートフォリオよりも信頼を得やすい。
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ここまでの整理
実績がない段階のポートフォリオは「過去の証明」ではなく「未来の提案」として設計する。
最初にやるべきことは3つ。想定事例を1つ作る。Before/Afterの改善案を1つ作る。それらを掲載するページをWebサイト内に用意する。
ポートフォリオは一度作って終わりではない。実案件が増えるたびに事例を差し替え、サービス内容が変われば更新する。公開したらGA4でアクセスを計測し、「どの事例がよく見られているか」を把握して営業の方針に活かす。問い合わせに繋がる導線については問い合わせ改善の記事を、名刺代わりのサイト設計については名刺サイトから営業サイトへの転換記事もあわせて確認してほしい。

